大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和37年(ラ)235号 決定 1963年2月16日

抗告人 有限会社とみや商店

主文

原決定を取消す。

本件競落は之を許さない。

理由

抗告人代表者は「主文同旨」の裁判を求め、その理由とするところは別紙記載のとおりである。

本件記録によると、本件競売不動産の最低競売価格は合計金三六〇、〇〇〇円であるところ、抗告人の本件差押債権に先立つ不動産の負担は、抗告人の本件執行債務者に対する根抵当権設定契約による金一、〇〇〇、〇〇〇円であつて不動産上の総ての負担及び手続費用を弁済して剰余ある見込のないこと、原裁判所の抗告人に対する無剰余通知に対し、抗告人は法定期間内に民訴法第六五六条第二項に定むる差押債権者の債権に先立つ不動産上の総ての負担及び手続の費用を弁済して剰余あるべき価格を定めて其の価格に応ずる競買人なき場合には自らその価格を以て買受くべき旨を申立て十分なる保証を立てなかつたことが明らかである。さすれば、本件競売手続は同条第二項により取消さるべきものといわねばならない。尤も、不動産上の総ての負担及び手続費用を弁済する見込がなくとも、本件差押債権に先立つ不動産上の負担である債権は前示のとおり抗告人の債権のみであつて、競売手続を進行することにより抗告人は抵当権を実行しないでも債権の弁済を受けることができる利益を有するから、かような場合民訴法第六五六条の適用は排除せらるべきものとの考もあるが、同条は優先債権者が差押債権者(強制競売申立人)である場合を特に除外したものとは解することはできない。

よつて、原決定を取消し、本件競落を許すべからざるものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 高原太郎 高次三吉 木本楢雄)

別紙 抗告理由

一、本件競売事件に付首藤芳子に於て本件不動産を代金三十六万円を以て競買申出を為し原裁判所は同金額を以て右首藤芳子に対し競落許可決定を為したものである

二、然れども本件記録によると本件不動産の最低競売価格は金三十六万円であるところ抗告人の差押債権に先立つ不動産の負担は抗告人の相手方債務者に対する根抵当権設定による債権極度額は金壱百万円であつて不動産上の総ての負担及び手続費用を弁済して剰余ある見込がないこと原裁判所が抗告人にその旨通知したのに抗告人は右通知から七日の期間内に買取価格の申出をしないことが明らかであるから本件競売手続は民事訴訟法第六百五十六条により当然取消さるべきである

同条は優先債権者が差押債権者(強制競売申立人)である場合を特に除外したものではないから同条に違反して為されたる本件競落を許可したる原裁判所の決定は取消さるべきものであり且本件競売申立も当然却下せらるべきものであると信ずる

(昭和三十一年(ラ)第七五号同三十二年二月十六日仙台高裁第一民事部決定高裁民集一〇巻一号三五頁参照)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例